(今では私は公認心理師として働いていますが、かつて、私が初めて催眠療法を受けたころは、宗教哲学の大学教授であり、看護学校などでも哲学、生命倫理などを教えていました。私にとって、人生はじめての催眠が前世療法となりました。
ブライアン・ワイス博士の『前世療法1・2』を書店で見つけて、読んでみて、本当に自分にも前世が見えるものなのかと疑問(期待?)を持ったのがきっかけでした。幸いにも、とてもいい心理士で催眠をされる先生に巡り会い、私は無事に一回のセッションで過去世イメージの体験をすることができました。その内容を少しお伝えします。
前世療法で見た「私」は、織田信長に仕える忍び(草の者)だったのです。表向きには家で薬草を作っているようでした。妻と男の子と女の子がいました。そこへ、命令が下りました。どうやら、敵方が正式に殿(織田信長)に指示書のようなものを提出してくるというのです。それが運び込まれるのを阻止し、その伝令を携えてくる者を討てというのが私への命令でした。
私はその使命をまっとうするのですが、それを終えると、忍びとしての自らの存在の痕跡すらも残さないように、妻や子の命までも自分が絶つという悲惨なことをする人生でした。最後は山中で松明を持つ十名以上の追っ手に囲まれます。ただ一人、刀を抜いて立ち向かい、何本もの槍が腹部を貫通して死んで行くというものでした。
そんな私の死体を自分で上から見ながら天へ登りつめていくと、そこには無口で白い衣をまとった厳しそうな威厳のある老人が私を待っていました。一言の言葉もかけてくれず、それでいて、その人は私が家族の命を絶ったことについて、「いいんだよ」というメッセージをテレパシーのように伝えてきたのです。
あの不思議な体験、そして、更に不思議だったのは、催眠から醒めた後に、まるで自分で自分を知ったかのように、あるいは、まるでアイデンティティを確認したかのように、自分の今生の生き方を反省することができました。
前世療法を受けることは、擬似的に死を体験することでもあると思います。その意味では、程度の差こそあるかも知れませんが、臨死体験に似ています。臨死体験をした人が、その後、死を恐れなくなり、いまの人生の使命を深く痛感したり、生き方がもっと前向きに変化したりする場合があるようです。それと同じような変化が前世療法でももたらされると言えます。臨死体験の体験者に起こる変化や共通した点を以下のように指摘する研究者もいます。
①死に対する恐怖の減少
②以前よりも強くなったという感覚
③生の重要性や宿命といったものに対する特別な感覚
④神あるいは運命によって特別な恩恵を受けているという確信
⑤死後にも存在が続くという強い信念
(参照 安藤治『瞑想の精神医学』p.293、春秋社)
このような変化は、前世療法においても起こると言えますし、前世療法を受けるということは、自分の内面に目を向けることにつながります。前世というイメージを通して生と死を経験することができます。
これによって、死への恐怖がやわらぎ、生きる意味への気づきが与えらることがあります。その意味で、ホスピスなどで催眠療法が体力的に可能な方にはとても効果のあるメンタルケアの方法になると私は思います。
過去世が本当にあったものかどうかを証明することは、生きている限りできないことです。だから、前世療法は無意味だということにはなりません。
前世療法の意義は、前世イメージが本当にあったことかどうかよりも、「療法」として今の自分に気づきを与えてくれるということにあります。前世イメージを見て、そこでの人生の目的がわかり、そこで達成できたこと、できなかったこと、そして、得たもの、あるいは得ようと思っても得ることができなかったものなどを知ることで、いま、ここでのあり方への気づきを得ることが可能です。
もし、いま抱えている問題がある場合には、ほとんどの人が前世療法によって解決への糸口を与えられると思います。
私は前世療法を施術していて、いつも不思議でならないことがあります。それは前世への誘導を終えて、次の人生への出発までの中間生(バルド)において、たいていの人が出会うマスター、あるいは守護霊によって示唆を与えられることです。しかも、その人のパーソナリティを何段か越えたような高次の言葉が投げかけられてきます。それはとても不思議なことです。
正直なところ、私がクライアントさんを前世に誘導し、あとはクライアントさんご自身で、前世イメージと守護霊との出会いのイメージによって、大きな気づきを得らると言えます。
誘導するセラピストとしては、その方の抱えている問題の解決の糸口を先読みすることがとても困難な場合も多くあります。でも、クライアントご自身で気づきを得ていかれ、解決へと導かれていくのです。そこにはセラピストの恣意的な誘導はありません。これは前世療法の特徴であり、優れた点だと思います。
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