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 心理療法ノート 

無我の境地は誰にでもある?   堀 剛 


 無我の境地という言葉は特別な悟りの世界の言葉のように思われるかも知れない。でも、私はこの言葉をとても身近なものとして理解している。
 まだ若い頃であったが、居合い抜きの師範だという人物から色々な話を聞かされたことがあった。現代では真剣勝負というようなものはあり得ないのだが、武士社会においてはそれが行われていたであろうことは誰しもご存じの通りである。
 その師範によれば、真剣勝負においては無我の境地になった者が勝つというのである。そのように言われると何か神秘的な感じもする。
 刀を振り回す勝負なのだから、ただ強い者が勝つのだということくらいしか私には思えなかったのだが、強い弱いというのは結果でしかなく、無我の境地に達している者が勝つとその師範は言い切った。

 当時、もう70歳にもなっていた方だが、とても健康で元気な人で、その年齢になってから生まれて初めてスキーに行ってみたという。一面の銀世界に包まれながら、スキーをなんなく楽しんだという。滑りながら、「雪景色に包まれて我を忘れました」と言われたのを今も覚えている。無我の境地というのは、ひたすら我を忘れるということであるそうだ。スキーにせよ、何にせよ、我を忘れる瞬間こそ無我の境地だという。

 真剣勝負の場合は、我を忘れることが出来ない者は緊張して身体が堅くなり、相手がどこからどう切り込んで来るのかと頭で考えている。だから、ますます身体が堅くなり、とっさの身のこなしが効かなくなる。そして、斬られるはめになる。だから、無我の境地になった方こそ勝つのだという。

 そういえば、昔、ジャズ歌手の綾戸智絵さんが大阪梅田のジャズ・スポットで歌っておられたころ、それももう遙か昔であるが、後輩に「頭で歌うんじゃだめ。身体で感じて。」と指導されているのを傍らで聞いたことがある。
 どんな世界でも同じだろう。無我の境地になること。一生懸命にひたむきになること。それが生み出すものは計り知れないほど大きい。

 催眠療法とて同じである。たとえば、年齢退行催眠をしたときに、その年齢の子どもになりきって話をする人もいる。あるいは、忘れていたことを思い出してはいても、その頃の自分になりきるどころか、催眠に入りきらない人もいる。
 これは催眠の深さにも関係しているし、誘導の仕方にもよるのだが、年齢退行してその時のその人に成りきっている人は、涙も流せば笑いもする。感情を表にどんどん出し切って来る。そのような人は、催眠の中でも「無我の境地」でそのときの自分になりきっている。

 このような状態が退行催眠の最初から起こる人の場合は、催眠療法も上手く進行することが多い。セラピストに対する警戒心や距離感も、そのような人はいったん解き放っているのだと思う。これもまた生きる技術なのかもしれない。
 人生、どこにおいても無我の境地が必要なのだろう。その場、その場の自分の置かれた場所で、為すべきとことを為す自分に成りきること。とても難しい感じもするが、でも自然な自分に成りきることでしかない。

 頭で考えないで、「いま、ここで」を生きるだけだと思うことができれば良いはずだ。催眠の場合に限って言えば、セラピストに何もかもゆだねることもまた必要といえるかもしれない。(もっとも、このようなクライアントのセラピストへの信頼感をラポールと呼ぶが、これを上手く引き出すのもセラピストの仕事であるのは言うまでもない。)
 肩の力も抜いて、自分を自分らしくするのである。それは思ったほど難しいことでもないようでいて、またとても難しい。あるいは、難しいようでいて、とても簡単な自然なことなのかも知れない。

 いつも自分を見ている自分とか、いつも見られている自分を意識している自分とか、そういったものを解き放つならば、もっと楽に生きることができるのではないかと思う。より自然に生きることができるのではないのか。無我の境地はとても日常的な自然な世界の境地だと思う。
 くわえて言えば、瞑想を意識していない境地というものこそ、いわば無我の境地なのだとも思う。自然体とはそういうものを言うのだろう。

 そのような自分を上手くコントロールして作り出すこと、それもまた心理療法の一つのミッションだと思う。ヒプノワーク心理療法室ではそのようなことも行いたいと思っている。

 
 






  

 

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